6,after










「寒くないか?」
「平気」


俺と梓は寒空の下、二人で歩いていた。
今年は冬至を過ぎたあたりから、ぐんと冷え込み始めた。
マフラーや手袋がないとそろそろきつい。
ついこの間まで涼しい位にしか思ってなかったのに。




梓はあれ以来、口数が極端に減った。
もともと、しゃべる方じゃなかったし、しゃべる奴もいなかったから、周りは、気づきもしない。
俺と、あと一人をのぞいては。





「姫君を優しく見守り、奔走する王子様、女の子の夢だね」
「言ってろ、アホ」

冷たくあしらえば、ひどいっ、なんてオーバーなリアクションをしながら、崎戸はケタケタ笑った。


崎戸とは例の一件で何度も話していたせいで、今も仲良くやっている。
よくよく考えてみれば、男で親友と呼べるかもしれないのは初めてだった。
崎戸は梓と同じクラスなので、俺がいないときは奴に見ててもらってる。

「過保護すぎると嫌われちゃうよ」
「うるさい」

朔弥さんと会える状況ではない今、他にも気を許せる奴が必要なのかもしれない。

「あのさ」
「なんだ?」
「・・いや、なんかあったら教えてくれよ」
「?・・・いいけど」

崎戸は俺を訝しげに見た後、教室に戻っていく。

『今度、遊びに行こうな』

そんなことも面と向かって言えなくなっていたとは。
どうしようもない自分に、ただ苦笑するしかなかった。
美樹は、あの日からそう経たないうちに、俺たちの前から姿を消した。
親の急な転勤でロンドンへ行くらしい。
朔弥を一人残して、この町を出た。











*****************





「行くんだね」
「うん・・それじゃあ」
「待って」

搭乗口へと移動しようとする美樹を梓が引き止めた。

「えっと・・」
「ほら」

言いよどむ梓の背中を押してやる。
美樹の告白の時みたいだ、と思っていたら、決心がついたのか梓が口を開いた。

「美樹、すきだよ」
「梓・・私もよ。ずっと、友達でいようね」
「あぁ、ずっと」

笑った美樹に、梓も微笑んだ。
好きの意味なんて、多分、美樹は分かってない。
それでも梓は、気丈にふるまっていた。




美樹を乗せた飛行機が離陸する。

「偉かったな」

仁はいつものように梓の髪をなでた。
梓のことだ、泣き顔を見られるのは嫌だろう。
そっと引き寄せて、その肩を抱いた。
それを嫌がるでもなく、甘んじて受けている梓が愛しくてたまらない。



どうせここまで待ったんだ。
あと何年かかっても絶対に待ってみせる。
見上げる梓に笑みを返しつつ、そう誓った。
















..........end.