ナイトキャンドル





「孝広・・」

いくら待っても現れない恋人の名を呼んで、亮は涙をこぼした。
今日は亮の誕生日。約束のレストランでもう3時間近く待っていた。
周りの客たちもまばらになって、もう閉店が近い。

「お客様・・」
「す、すいません。・・・・もう、帰りますから」
「いえ、こちらの席へどうぞ。外がよく見えますよ」


待ち人が早く見つかるようにとの配慮だろう。
彼は亮を通りに面した座席へと案内した。





しかし、とうとう孝広は現れなかった。

「は・・はは・・、バカだな俺・・・誕生日に振られてやんの・・」

氷がとけて水っぽくなったアイスコーヒーをかき回す。
くるくる回る氷が小さくなり、やがて、とけて何もなくなった。

「ばかみてぇ・・何時間も期待して・・・」
「お客様」

白いハンカチが差し出された。
「お使いください。店は閉めさせていただきますが、落ち着くまでいらっしゃって もらってかまいませんから」
「すいません、俺・・・」
「いいんですよ。泣きたいときは溜め込まないほうがいいですから」

ふわりと微笑む彼にまた新しい涙があふれてくる。

「俺、今日誕生日で・・最近孝広が忙しいのはわかってたけど・・でも 二人でいたいってわがままいった・・」

とまらない。彼のギャルソンエプソンを握り締める。

「俺、一人で浮かれて・・・予約したから待ってるって・・」
「お客様・・」
「でも、来なかった・・バカみたいに一人で何時間も、何時間も・・」


彼は俺の頭を抱きしめるようにして撫でてくれた。
店の中の電気はすでに消され、亮のテーブルのキャンドルの明かりがあたりを 照らしている。
久しぶりに子供みたいに声をあげてみっともないくらい大泣きした。

「大丈夫ですよ。どれだけ泣いてもここには私一人しかいませんから」


涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、雫が枯れるまで泣きはらした。










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