気づいてる?





「いらっしゃい」
執行部会計を務める真中がにこやかに中へと招きいれたこの部屋は我が六花の生徒会室。
役員それぞれのデスクは当たり前。生徒会長にはまた別に会長室なるものが存在するらしい。
俺が前に通っていた学校とは比べ物にならない。というか比べられたらかわいそうだ。
なんせ一般の公立高校だったのだから。


「今日は俊介君来ないけど」
「あぁ、わかってる。先生に頼まれて物を届けに来ただけだ」
「毎度のことながら、ご苦労様だね。断ればいいのに」
「それができたら苦労はしない」
「それもそうか」
くすっと笑って、真中は奥の部屋へと入っていった。



それにしても金持ちってのはどうしてこう無駄遣いばかりするんだろう。
会長室はなんでも三代目会長が増築したらしい。狭いのが嫌いなお坊ちゃん体質だったのか知らないが、
現会長にいたっては、執務室というよりも私室として私用としているともっぱらの噂だ。
それを黙認しているのがこの学校の酔狂なところだ。校則の規制が緩すぎる。




「どうぞ。ブラックでよかったよね」
「悪いな。長居するつもりはなかったんだが」
「いいよ、別に」
真中が入れたコーヒーは下手な喫茶店よりずっとおいしい。
しかも、こちらの気分によって豆のブレンドを調節してるというから驚きだ。
「美味いな。・・・しかし、こういうことは目上の者にやらせるべきではないと思うが」
ちら、と視線を流す。その先にいた一年生たちがぴくりと肩を竦めた。
「いいんだよ、好きでやってるんだ。それに、どうせならおいしい方がいいだろう?」
「真中のコーヒーを飲んだらインスタントが飲めなくて困る」
貧乏性故か安くてぎりぎりのもの、インスタントも質の悪いコーヒーを飲んでいたから、
最近になってこの美味さを知ったせいで安いコーヒーを受け付けなくなってしまいつつある。

「そうだ、書類。会長に渡せばいいのかな?」
「あぁ。明日の朝の職員会議で必要だそうだ。それとこっちのは各クラスからのアンケートを
学年別でファイルしたものだ。こっちは枚数があるから一週間後が期限だといっていた」
「了解。じゃぁ会長に渡しておくね」
「頼む」
冷めないうちにコーヒーを流し込み、席を立つ。
「お疲れ様。また、いつでもおいでね」
「用があればな。それと・・・真中」
「何?」
「ココ。どうせ皆川だろう?つけるのは勝手だが、見えないところにしろと言っておけ」
「え・・・」

とんとん、と自分の首でその場所を示してやると、内容を理解した途端一気に赤くなっていた。


「あ、あの、こ、コレは・・・」
「じゃあな」


一人慌てる真中を残し生徒会室を後にする。
扉の向こうでバサバサと紙が落ちる音がした。










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