■ 大野君の初恋 ■

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受験勉強でみんな躍起になってるこの時期、俺、大野悠もせっせと駅前の塾に通っていた。
第一志望は私立の六花学園。本当は受かれば奇跡みたいな学校なんだけど、塾の先生に相談したら
「お前なら一日28時間くらい勉強したら絶対受かるよ。保障してやる」と言ってくれた。
俺についてくれている山川先生はもさい熊なおっさんだけど、俺はけっこう好きだったりする。
ひたすら問題を解きまくる演習をして、間違えた点だけを徹底的に潰す。
あとはもっと簡単な解き方を 教わって、応用が利く問題で公式を定着させていく。
前の先生は俺が問題を解く間ケータイいじってたり マンガ取り出して読み込んでたりで話にならなかった。
それでも教え方は上手かったから学校の順位も それなりにはなったのだけど。




朝から晩まで、バカみたいに勉強に費やした。テレビも漫画もほとんど見ていない。
大好きなゲームだって六花の文字を書いたお札で戸棚に封印済みだ。
学校で「昨日の見た?」なんて聞かれてもあいまいな笑いでやり過ごす回数が増えてきている。

なんでそこまでして六花学園に行きたいのか。
それは今の俺の隣の奴、千々谷がそこを第一希望としているのを聞いたからだった。
何が何でも、絶対に受からなきゃいけない。

だって、千々谷は俺の初恋だから。





俺は3年になって初めて千々谷と一緒のクラスになったんだ。
本当は持ち上がりのはずだったんだけど 向かい側の道路に建てられた高層マンションのせいで
一気に生徒数が増えたってことで、急遽新しくクラス編成 がされたってわけだ。
FまでだったのにGにまで増えて、おかげで俺のA組は黒板の上下しない古い方の教室になった。


「なぁ千々谷、今日の英語あたるんだよ。頼む!写させてくれ」
「うるさい。宿題くらい人を頼りにしないで自力でやれよ」



ぱんと両手を打ち合わせて頼み込んでるのが千々谷の悪友、松本だった。
俺はこいつが大嫌いだ。
俺が話してると間に割り込んできて、微妙に千々谷に擦り寄って媚を売ってる。
こんな気持ちになる前は気づかなかったのに、無性にイライラする。
松本は今も我が物顔で千々谷のイスに座っている。
ぎったんばったん動かしてるそのイスを ちょこっと押してやったらすっきりするだろうなぁ。
俺は思っても行動には移さない。基本的にいい子だ。







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