■ 大野君の初恋 ■

2










今になっては千々谷のことこんなに大好きっ子(?)になったわけだけれども、
夏休み前は大嫌いなやつだった。
取っ組み合いのケンカも一度や二度ではない。
取り澄ましたような顔がむかつく。ケンカの理由なんざ覚えちゃいない。
千々谷がそこにいる。そんなんで十分だった。


何より俺よりちょっとばかし背が高いからって、見下した態度を取りやがるから
千々谷の髪を 引っ張ってやった。
短い髪は思うように掴めなかったから直に頭皮に爪をたててやる。
千々谷は俺を持ち上げて近くの机めがけて投げやがった。
がたがたと倒れていくイスなんかに クラスの女子が悲鳴を上げているのがどこか遠くに聞こえた。
馬乗りに乗られて避けようがないまま殴られまくった。
疲れてきたのかそのうちに千々谷の攻撃が緩まる。

チャンスだ、と殴り返してやろうと拳を繰り出したが、千々谷にあたったのはひょろひょろのパンチだった。
思い切り振り払われる。腕が床に叩きつけられた。
千々谷は勝者の笑みを浮かべて俺から離れる。

「まーたお前らか。いい加減にしろよ。ったく」


女子から言われたんだろう。いかにもかったるそうに色黒の教師がやってきた。

――椎名月、今年あたりで30だったか。多分それぐらいの年だ。
テニス部の顧問でこれでもかってほど黒い。
日サロで焼いてるらしいけど、あれだけコゲコゲだと、老後にしみしわがわんさかできるんじゃないかとおもう。

「千々谷。お前もちったぁ手ぇ抜けっての。こいつよわよわなんだからよぉ」

俺は椎名に首根っこを掴まれて保健室に連行された。
あの時はなんともなかったけど、体育祭の時は流血沙汰にまでなったからな。
まぁ俺はそのおかげでめんどくさい開会式に出なくてすんだんだけどさ。








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