「おーし、10分間自由時間にしていいぞー!」 ラグビーあがりの新任教師が声を張り上げる。夏休み直前の学期末最後のプールの授業。 クラスのやつらはグループで固まって小学生みたいにはしゃいでる。 俺は太陽がよくみえる真ん中らへんまで歩いていって思いっきり息を吸ってもぐった。 水面を見上げるとキラキラ光が反射してすごくきれいだ。 俺は泳げないし、せいぜい10秒潜ってられたらいいほうだ。 それでも水面のキラキラを見るのは昔から好きで、端っこの階段につかまって潜っていた。 ちょっとした冒険だった。俺はつま先が少し浮くくらいの深さで潜った。 『やっぱキレーだなぁ。水中カメラほしいかも』 いつもより少し深めの位置から水面を見上げた。 公立中学校のプールだしそんなには深くはないんだけど、 こぽこぽ小さい泡が水面に吸い込まれてくのが面白い。 『そろそろヤバイか』 床を蹴ろうとしたそのとき、足先に疼痛が走った。足をつってしまったのだ。 蹲って足の指をほぐすけれど痛みは引いていかなくて、どんどん息が苦しくなっていく。 もがいて水面に顔を出そうとして、水を飲んで余計にパニック状態に陥ってしまった。 『嘘・・死ぬ・・』 まさか学校のプールなんかで死ぬハメになるなんて。 こんなんだったら、もっとちゃんと 泳げるように練習しとくんだった・・・ がぼっと大量の水を吸い込んで、体が水中に沈んでいく。 もう、だめなんだ・・そう、諦めかけたそのときだった。 「何やってんだ、死ぬぞ!」 叱責とともに体が引き上げられる。力の入らないまま、ぐったりした体を抱きかかえられ プールサイドに運ばれる。 「生きてるか?おい、大野!」 声をかけながら幾分あせった顔で俺を抱える千々谷が見える。 必死な形相で何か叫んでいる千々谷がおかしくて笑おうとした俺の意識はぷつりと途切れてしまった。 「・・の・・おの・・・大野!」 「あ・・・れ・・?なんで、俺・・」 「バカ野郎!泳げねーんなら隅にいろ!一人で真ん中なんかに行くから あんなことになるんだ!」 「あんなことって・・?」 目の前に千々谷のどアップと俺の周りをぐるりと囲んだクラスの男子たち。 思い出せねぇ・・この状況からいくとリンチか・・?でも、海パンはいてっし・・。 「ったくお前は・・・いいか?泳げもしねーのに何を思ったのかお前は一番深い真ん中まで 行った挙句、足つって溺れたんだよ!」 「そう・・なんだ・・」 「そうなんだ・・てお前なぁ・・」 「さんきゅな、千々谷・・俺死んでたかも・・」 素直に頭を下げた俺に千々谷が目を見張っている。 「いや、別に・・」 「あ、・・・ヤバ・・」 頭を下げたせいで気持ち悪くなってきた。 視界がぐにゃりと歪んで千々谷に倒れこむ。 「おい、どうした!大野!」 『しゃべんなって・・・響くだろーが・・』 答える気力もない俺は千々谷と体育教師によって保健室に運ばれた。 |