■ 大野君の初恋 ■










結局上履きも見つからないまま、気づいたら最終下校になっていた。
これだけ探してもないならもう見つからないのかも。
今までの経験から大体隠される場所を当たってみたのに全滅。

「お前、まだいたのか?」
「お~。センセは見回りか?ごくろーさん」
「大野、ご苦労様ってのは普通目上に向かっては使わないんだよ」

こうして時々、しょっちゅうって言った方が正しいかも知れないけど、最終下校まで 残っている俺はたまに椎名に会う。
理由は上履きだったり、教科書だったり、まぁそんなとこだけど。
椎名は多分気づいているけど、何も言ってこない。
放任主義ってやつだな。本当に必要なときだけ助けてくれる。
そっちの方が俺にはありがたいけど。

「じゃ俺帰るな」
「早く帰れよ。部活も終わったからな、嫌だろ。巻き込まれるの」
「・・ん」

椎名と別れて昇降口まで来た俺は、自分のクラスの下駄箱にもたれて立つ千々谷を見つけた。
誰かを待っているのかもしれない。眉間に皺を刻んでいる奴の脇を通るのは気が引けるけど、上履きのままじゃ帰れないし。しかもご丁寧にちょうど俺の下駄箱の位置に立ちやがって・・。

「お、お前まだいたのか?・・じゃない。靴が取れないだろ。どけって・・」
「ほら」

むすっとしたまま千々谷が放ってよこしたのは俺の上履きだった。

「な・・んでお前がコレ持ってんだよ」
「お前のだろ」
「そうだけど」
「ならよかったじゃないか。見つかって」

言うなり千々谷は靴をはいて昇降口を出ていった。

見つかって・・?どういうことだよ、まさか探してたのか?んなわけないよな。
思いがけない上履きの出現と、見つけたならもっと早く教えてくれれば遅くまで残らなくてもすんだのにっていうので、ぐずぐず履き替えていたら帰ったはずの千々谷が戻ってきた。

「何やってんだお前。遅い」
「え、ちょっ、うわっ」

強引に引っ張られて俺は情けない格好で校舎を出た。
校門を出たところで手を離されたけど、まだ少し痛い。 腕をさすりながら歩く俺の隣を千々谷が歩いている。
今日もどうしてだか千々谷と一緒だ。二日連続で。

「なぁ」
「なんだ」
「いつからいた?」
「・・・知らん」
「ふーん」

別れ際、千々谷はアメをくれた。
昨日と同じように俺が家に入るまで、奴は俺を見送っていた。

なんなんだよ、お前・・・














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