■ 大野君の初恋 ■












「じゃぁ今日はここまで。プリントやってきてねー」
比較的若い英語教師はそう声を張り上げて出て行った。 4時間目も終わった。昼休みだ。
チャイムが鳴り終わると同時に生徒がいっせいに廊下へなだれ込む。俺の学校はランチルームで給食をとるようになっている。AとBがそれぞれ選べるやつ。 なんでも、市が給食には特に力を入れているらしい。 嫌いなものが出たり、両方好きなメニューだと結構迷うんだよなぁ。

なんだかタイミングを逃した俺は教室で最後尾を待つことにした。 といっても今週は3年が最後の週だから、あと15分は列が動かない。 今のうちに探しとくか。
ランチルームの入り口はどうせ一階だ。
食券が入った生徒手帳をポケットに捻り込んで、人ごみの中を掻き分けて昇降口を目指した。


昇降口の脇のゴミ箱から探し始めた。
砂、埃、ノートの切れ端・・・
反対側のゴミ箱にも上履きは入っていなかった。

「焼却炉行ってみるか」
中庭を抜けた裏門のあたりに焼却炉はあった。
今はもう使われてないから蓋が重いのなんのって。開かないようにしてるから余計に、なんだけど。
何とか力を振り絞って蓋を押し上げる。このままじゃ両手が塞がって探せねぇ・・
肩に蓋をのせて支えながら、穴の中に手を突っ込んでかき回した。

ざりざりざりざり。 砂とホコリばっか。
はずれだ。
ったく、どこに隠したんだ?
こうやって探してるのを見るのはそんなに面白いかよ。 いるわけがない松本に愚痴をもらすのも毎回のこと。

「あー、メシ食いっぱぐれる」

そろそろいい頃だ。
15分以上探してたかもしれないし・・・早くしないと本当に食べられない。
プール裏とかにもありそうな気がするけど、一旦引き上げることにした。



Aランチ。キャロットライスのホワイトソース掛け。
ほんとはBだったけど、中に入ればどっちがどっちなんていちいち覚えてないだろ、うん。
席は・・・端が空いてるな。
早食いの集団が抜けた後らしい。ぽっかりそこだけ空いている。この真ん中に座ってみたらどうだろう。
実際はそんな勇気はなくて窓際のすみの方に落ち着いた。

ここから千々谷が見える。
偶然とはいえ、なんだか自分を褒めたくなった。
気づいてない・・・よな?
さっきこっち見てなかったし、しゃべらなければ大丈夫だ。 へへ、なんだよ、俺ってばー。

って、なんで見ただけで嬉しがらなきゃいけないんだよっ。 そりゃ、対等になりたいーとは思ったさ。
あー、思いましたとも。でもさぁ、こういうのって対等ってよりも・・・。

大盛りになっているスプーンに齧りつく。

これってさ、これってさ!
あー、もう、昨日言ってたのってもしかしてこうなるのが分かってたってわけ?千々谷。
これって、アレだよな。ミーハー心?アイドルじゃねぇんだからそんなの芽生えなくてもいいのに。
取り巻きの連中と同じってこと?うわー、最悪。


とにかくっ、こんなんじゃダメだ。あいつらと同じにならなきゃいいだよな。
残ってる皿を一気に片付ける。

「・・ぐっ」
「そんなに急いでかきこむからそうなるんだ。といっても、もうすぐ出る時間だぞ。次からはもうちょっと早く来いよ」
とん、とパック牛乳が差し出される。俺は奪うように一気飲みをした。
「ふぁー・・生き返った。ありがとな」
誰だか知らないけど・・と続けようとして固まる。
千々谷が眉間にものすごいしわを寄せていた。
ひど・・。知らなかったとはいえ、感謝いっぱいの俺様のスペシャルサンダーフラッシュな笑顔を・・!

・・・なんだか自分で思ってること自体が惨めだ。
千々谷はそのまま踵を返して仲間の待つ2階へ上がっていった。


「なんなんだよー。俺だって礼くらい言えるぞ」
「そぉか。えらいな大野。でも、もう時間だからなんだよ。早く出てけ」
椎名センセに追い立てられてランチルームを出た俺は教室に逃げてきた。


次は掃除だ。
上下真っ青なジャージに着替えた俺は第二音楽室までとぼとぼ歩いた。 2対1。掃除の班では話せる奴がいない。女子はもっての外。 今日もただ黙々と、手抜きの掃除に励んだ。











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