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「ここは・・・・?」

気がつくと、俺は見覚えのない部屋に寝かされていた。
あまり広くない室内は手入れがされていないのか薄汚れている。
家具といえば今寝ているベッドとテーブル、イスが二脚ほどあるだけで客室とは言い難い。
まぁ、それもお兄さんの言ってた事が本当だった場合、なんだけど。


「あはは・・・誘拐?」
「同意ですから、違うのでは?」


先ほどの青年が会釈をして入ってきた。

「巫女様、長がお呼びです。こちらへ」


部屋を出たそこは人が二人並んで通ることのできない狭い通路になっていた。
明かりはところどころに松明があるだけで、昼のお日様の下にいた俺の目はすんなりとは慣れるはずもなく、
ほとんど見えないような状態で歩かなくてはならなかった。
そのうえ道が歪曲しているので、俺一人では元の部屋に戻れそうにない。
何度目かもわからない角を曲がると、急に光が差し込んできた。

「巫女様、到着いたしました。神殿でございます」
「神殿?」

目をしばたかせると、段々視界がはっきりしてきた。
神殿・・・壊れてるけど。


「あのさ・・・」
「すみませんね。もっと立派だったときにお見せしたかった」
青年のものより少し大人びた声は苦笑交じりにそういった。


「お初にお目にかかります。今、このエルフの長を務めております、アウラと申します」


俺が見上げるほどの長身で、青年と同じく長い髪。
銀糸のようなそれが照明の中で、輝いて見える。
眼鏡をつけて白衣着たら優しいお医者さんのできあがりだ。


「如月唯です。あの、いいですか?これってコスプレサークルとか、演劇のセットですか?すごいですね。
ファンタジーの世界まんまだ」
「こす・・ぺれ・・とは何でしょうか。セットとは?」
「え?」


まずい。なんかやばくないか?
アウラさんほんとに知らないって顔してるし、(コスペレって言ったー!!)もしかして、もしかするのか?
俺は演技派(だと思いたい)の二人からとりあえず話を聞くことにした。



適当な大きさの瓦礫を見つけてそれを椅子にする。
アウラさんは近くの壁の埃を軽くはたいて、”ジュゼッタ“と唱えた。
すると壁が淡く光り、スクリーンのように映像を映し出した。


「私の記憶です。これを使って説明いたしましょう」


この国、いえ、この世界には、ある伝説があるのです。


この星に邪悪なる魂が訪れるとき、異界より光が舞い降りるだろう
光は闇を照らし、またこの星に平和が訪れるだろう


この伝説の真意は今まで分かりませんでした。
それほどまでにこの星は平穏に包まれていましたし、邪悪というものの認識がほとんどなかったのです。
ですがある日ブラッドシードマスターと名乗る男により、世界は一変してしまいました。
平和だった国は荒れ、抵抗もできなかった私たちにはどうすることもできないまま、
伝説だけを頼りにあなたを探しました。
数多くの異界の波長からたった一人を見つけるのは難しく、あなたをこうして見つけるまでに多くの者が
命を落としました。
そして今、あなたはここにいる。私たちの唯一の希望なのです。





「・・・でも俺って男だし、巫女とは違うんじゃないかなと思うんですけど」


ふと浮かんだ疑問。そういえばさっきの話には‘光’とあっただけで、巫女なんてない。
ましてや男、女などとはどこにもなかった。

「いいところに気がつきましたね。実は『時を翔るのは少女だ』と、昔誰かが言ったようで、それが定着しているのです。
もっとも、『時』ではないのですけど」
「そんなもんでいいんですか」
「どんなものでも多少は変化するものです。さて、ライルこっちへ」
「ライル?」
「おや、まだ名も名乗っていなかったのですか。あなたを此処にお連れしたのがライルです」


ライルと呼ばれた青年が跪き頭を垂れ、「ライル・ウィンディア」と名乗った。


「彼があなたの世話係を務めます。といってもここには今私どもしかいないので不自由するとは思いますが」
「俺は何もできませんよ。ただの高校生だし」
「それについては明日説明しましょう。今日はお疲れのようですし」




「はぁ、なんかすごいことになってるなぁ」


硬いベッドにダイブなんてマネしたからいろんなイミで痛い。
というかもう夜になってるなんて気づかなかった。心配性の兄貴がもしかしたら捜索願い出してたり・・・
なんかちょっと心配になってきた。RPGとかって任務が終わるまで街には帰れないんだっけ。

「あのさ、家に連絡取りたいんだけど」
「申し訳ありませんが、こちらにいる間は無理だと思っていてください。しかし、こちらに比べて時間の経過が遅いようなので
心配はいらないかと」
「そっか。じゃあいいや。俺、もう寝る」
「よい夢を」


ライルは静かに戸を閉め出て行った。
明かり取りのための小さな窓から赤と青の月がみえる。


「俺だけのためにココまでやるわけないよな」




連絡もとれない。帰り方も知らない。
演技なのかも知れない。でも、
もしもさっきの話が本当だとしたら、これから俺は一体どうなるんだろう・・・?





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