君をつかまえる




高尾忍は先月、この私立六花学園に転校生としてやってきた。
六花学園は幼等部から大学部まであり、設備も最新鋭のものを揃えてある。
進学校としても有名ではあるが、大物政治家や大企業の社長などの出身者が多く、
その子供を六花に入れるのでお坊ちゃん学校としても名が知られていた。


季節はずれにやってきた転校生に、周り反応は冷たかった。
忍の両親は普通のサラリーマンだった。大企業の社長でも何かのオーナーでもない。
異常に難しいとされる編入試験を難なくパスしたことが、輪をかけて忍を孤立 させていた。


授業を終え、足早に教室をあとにする。
校舎わきにある温室でサンドウィッチを齧りながら持ってきた参考書を開いた。
ちょっとした植物園のようなその温室は、色とりどりの草木が植えられていた。
ここはいつきても静かだ。
図書室の奥の窓から偶然発見してから一週間、昼休みは毎日ここへ通っていた。


「花、好きなの?」



突然降ってきた声に忍はハムサンドを半分落としてしまった。

「ごめん、驚かすつもりはなかったんだ」
「もうひとつ残っている。気にしなくていい」


袋から取り出す。今度はたまごサンドだった。
声の主は忍の隣に座った。

「僕は中西俊介。1−Dだよ。・・転入生?」
「あぁ。高尾忍、1−Cだ」


最後の一口を放り込む。
忍が食べ終わったのを見ると、中西は忍の正面まで回りこんできた。
ぐっと覗き込まれて、まじまじと見つめられる。
忍とほとんど変わらない背丈にも関わらず、性格は正反対のようだ。
その目は好奇心に溢れている。

「たかお、しのぶ?」
「あぁ。そうだが」


さっき自己紹介はしたはずだが・・?

「高尾忍。転入生。・・・見つけた」


中西は何やらポツリと呟くと、前に乗り出してきた。
後ろに反って避けようとして、肩を押され芝生に倒れる。
忍の手から、ばさりと参考書がすべり落ちた。



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