君をつかまえる





「はぁ・・」
書類の束を抱え、忍は廊下を彷徨っていた。
目的地まであと少し。
後悔は後にするから後悔なのだ。



「高尾、ちょっといいか?」

HRが終わり教室を出ようとした忍を、千々谷が引き止めた。
「何ですか?」
「悪いが、これを生徒会室までもっていってくれるか?」
学校に慣れるという目的なのかは分からないが、こうして用事を頼まれることが多くなった。
いつもならすぐに受け取れるのだが今回は目的地が悪い。

「・・用事があるのなら他にまわすが」
「い、いえ、いきます」
「そうか。じゃぁ頼むな」

受け取ってしまってから後悔が嵐のように襲ってくる。
今更返すわけにもいかない。恨むなら頼みを断れないこの性格だ。
そんなこんなで絶対行かないと誓った忍の思いは、あっさりと覆されてしまった。




見上げるドアの上には「生徒会室」の文字。
ノックを2回、中から返事があった。

「失礼します。千々谷先生からの書類を届けにきました」
促されるままに中へと入る。

―――広い・・
明らかに生徒会室には不必要な広さだ。華美ではない内装にしてもよくよく見るとかなりの品が置かれている。
会計席が右、書記席が左。それぞれに一年生が座って作業をしている。
そして一番奥の『会長』のプレートの机のとなり、書類が積み重なった机に中西がいた。

「今手が離せないから、こっちまでもってきて」
中西の声に、忍の身体に緊張が走る。
本当は近い一年生に手渡してすぐに戻ろうと思っていたのだが、今すぐ帰りたいのをこらえて中西に書類を手渡す。
「これは・・会長の承諾が必要なやつか。期限ぎりぎりだな」
パラパラ書類がめくられ、内容に目が通される。新しい書類の束が積み上げられた。

中西が動くたびに、なにをされるのかと警戒してしまう。
「ご苦労様。帰っていいよ」
簡単なねぎらいの言葉をかけると中西は視線を書類に移した。
そのまま仕事に集中する姿に密かに安堵する。
事務的な対応をされ、中西の一挙一動に警戒していた自分がバカみたいだ。

「高尾君」
「何だ?」
ちょいちょい、と手招きされて、すっかり安心しきっていた忍は警戒するのを忘れて、 顔を近づける。

「今日十時、僕の部屋においで。君が知りたいこと教えてあげるから」
「――――っ」
耳元で囁かれた挙句、耳を軽く噛まれた。
「だっ、誰が行くかっ!」
「・・待ってるよ」
反射的に中西を突き放す。
噛まれた耳をおさえながら、生徒会室から脱出した。




「――――いいのか?」
「うん。彼は来るよ、必ず・・ね」







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